大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(行ツ)48号 判決

上告人 株式会社日強製作所

被上告人 小石川税務署長

訴訟代理人 高橋健吉

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡部勇二の上告理由第一について

法人税法(昭和四五年法律第三七号による改正前のもの、以下同じ。)二条一〇号イないしハに規定する同族会社の要件のいずれかに該当する同族会社の同族判定株主である使用人兼務役員は、すべて同法三五条五項かつこ書き、同法施行令(昭和四五年政令第一〇六号による改正前のもの、以下同じ。)七一条四号により、同法三五条二項の使用人兼務役員から除外されるものと解するのが相当であり、したがつて、右イないしハの要件のいずれにも該当する同族会社の場合は、ハの要件についての判定の基礎となつた株主である使用人兼務役員は、すべて同法三五条二項の使用人兼務役員にあたらないものと解するのが相当である。これと同旨の原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

同第二について

法人税法三五条一項、五項および同法施行令七一条は法人の支給する役員賞与につき二重課税を規定したものではないとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。所論違憲の主張は、右の違法のあることを前提とするものであつて、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 岸上康夫 藤林益三 下田武三 岸盛一 団藤重光)

上告理由

第一 原判決は事実を誤認し、旧法人税法(昭和四五年法律第三七号による改正前の法律)二条一〇号、同法三五条および同法施行令七一条四号の解釈適用を誤り、上告会社の「使用人兼務役員」である倉持仁、涌井陽太郎および宮城嘉春(以下倉持ら三名という。)は上告会社の同族判定株主であるから、右法条により「使用人兼務役員」から除外されることになり、従つて、右の三名に支給された賞与を本件係争事業年度の所得金額の計算上損金に算入することができないとして、第一審判決が認容した上告人の請求と同一内容である原審における新請求(以下本件請求という。)を棄却しているが、右は誠に違法であるから、原判決は破棄され、上告人の本件請求は認容されなければならない。

一 本件請求における争点は、倉持ら三名が旧法二条一〇号(以下単に一〇号という。)(イ)ないし(ハ)のいずれの同族会社の同族判定株主に該当するかということである。

二 しかして、上告会社が二条一〇号(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれに該当する同族会社であるかについては、上告人は右(イ)に該当すると主張し、第一審判決はこれを認容したのに対し、被上告人は右(ハ)に該当すると主張し、原判決は右(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれにも該当すると判断して、本件請求を棄却したのである。

三 そこでまず、原判決が認定した上告会社の役員五名の持株数、右持株の発行済株式総数に対する割合および右役員の持株数の組合せを表示して、各主張を具体的に示す。

役員の氏名および表示 持株数株 持株割合% 組合せた持株割合%

A高橋省吾      三、一〇〇  六二  A     六二

B倉持仁         八〇〇  一六  A、B   七八

C涌井陽太郎       六〇〇  一二  A~C   九〇

D宮城嘉春        四〇〇   八  A~D   九八

E佐久間庸夫       一〇〇   二  A~E  一〇〇

合計       五、〇〇〇 一〇〇

(一) 上告人はAの割合が六二%であるから、A一人が同族判定株主となつて(イ)に該当し、従つてB、C、Dは同族判定の株主にならない。

第一審判決は、これを認容した。

(二) 被上告人は、A、B、C、D、E五名の割合の合計が一〇〇%であるから、従つて、A、B、C、Dは同族判定株主となつて(ハ)に該当する。

(三) 原判決は、

(1)  A、B、C三人の割合の合計が九〇%であるから(イ)に

(2)  A、B、C、D四人の割合の合計が九八%であるから(ロ)に

(3)  A、B、C、D、E五人の割合の合計が一〇〇%であるから(ハ)に

それぞれ該当し、従つて、B、C、Dは右(1) 、(2) 、(3) のいずれにおいても同族判定株主となる。

四 してみると、本件争点は、前項の確定している事実につき、一〇号を適用したときに、上告会社は一〇号(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれの同族会社に該当するかという法令の解釈適用の問題である。

換言すれば、五一%をこえた部分の持株を有する株主、更には八%、二%という小株主も、右法条の三人以下、四人、五人に含まれると解することが適法かということである。

しかして、上告人は、第一審判決の判示が適法であつて、原判示は違法であると認める。

五 原判決は、「本件一〇号は(イ)ないし(ハ)の要件の適用の順序ないし右要件相互間の優先劣後の関係については特に規定することなく、他にこの点についての定めもない。」と判示しているが、右は誤りである。

六 そもそも、税法における同族会社の理念は、少数の大株主が会社の意思決定を支配し、もつて、他の会社より低額の不平等な税負担を実現することを排除しようとするものである。

しかして、少数の大株主という理念の中には当然に、持株の多少による株主の順位が存在する。

従つて、本件一〇号(イ)、(ロ)、(ハ)の三人以下、四人、五人の株主とは、その各持株数による大株主の順位の上位から三人、四人、五人を意味するものである(甲第二三号証)。

よつて、右(イ)ないし(ハ)の要件の適用には、(イ)、(ロ)、(ハ)の順序があり、優先劣後の関係がある。

七 原判決は「ある株式会社が右(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれか一つの要件に該当して同族会社とされる場合もあるし、また、右の要件のすべてに該当する同族会社である場合もあり得る。」と判示しているが、右のような事実は計数上あり得ない。

八 しかして、右適用の場合における大株主の持株の割合につき、旧法の通達では五%以上を有する株主と規定していたが、新法では、一〇%以上と変更された。

旧法一〇号が三人から一人増す毎に一〇%増しと規定していたのだから、大株主とは一〇%以上の株式を持つた者のみに限定して解すのが、合理的な解釈である。

しかして、新法では、旧法一〇号(イ)該当の会社のみが同族会社であると改正されたのみならず、その株主の持株の要件が通達の改正で五%から一〇%に引上げられたので、一〇%未満の株主は一〇号の三人以下の株主に含まれないことになつたのである(甲第二三号証)。

してみると、旧法の改正によつて、使用人兼務役員の範囲に入る人員が数倍に増大し、それだけ法人税が減税になつたのである。

しかして、旧法の改正は、原判示のように租税政策の変更によるものではなく、本件上告代理人がなした憲法違反の主張を内閣および国会が認容して、税法を適法に訂正したものである(甲第一九号証ないし第二二号証)。

九 原判示は「五人の株主が二〇%ずつ均等に株式を保有している場合には、何人を同族判定株主とするのかについて判断に窮するから、被控訴人のような解釈は到底これを採ることができない。」と判示しているが、右は誠に幼稚である。

右の場合、三人で六〇%になり、かつ、右三人が五人の中から任意で選択できるのであるから、右五人が(イ)に該当する同族判定株主となるのである。

右のような持株比率均等の株主の問題は、二人が五〇%、三人が二五%以上、四人が一七%以上、五人が一五%以上を均等に保有していた場合等に当然に発生することであつて、税務当局は何等判断に窮することなく、全員を同族判定株主としていたのであつて、原審は完全に踊らされたのである(甲第二三号証)。

一〇 原判決は「新法による改正は、同族会社に対する特例を緩和しようとする租税政策の変更によるものと認められる。そうして同族会社ないし同族判定株主の要件ないし範囲をどう定めるか、これらに対してどのような特段の取扱いをするかは、一国の租税政策の問題であつて、それが憲法に反しない限り、立法の自由に属することがらであるから、右のような改正は、叙上の解釈に何ら影響を及ぼすものではない。」と断定しているが、右は、新法改正の経過に関する甲第一〇号証ないし甲第一九号証の国会会議録等を全く誤解したものと認める。

国会および内閣は、本件上告代理人が本件請求において主張している「旧法における同族会社の使用人兼務役員に対する賃金賞与の損金否認は、憲法一四条、二七条一項、三〇条の各条項に違反する。」との主張を第六〇回および第六一回国会に持ち出し、平林剛議員をして衆議院大蔵委員会で内閣に対し質問一回および質疑四回をなしたところ、右主張を正当と認めて、昭和四五年法律三七号をもつて、旧法二条一〇号を改正したものであつて、右法改正は本件上告代理人が学問の力によつて税法における正義と年間一、〇〇〇億円の減税を実現した歴史的改正であつた。

一一 してみると原判決の「被控訴会社は、前記(イ)ないし(ハ)のどの要件にも該当する同族会社であり、右倉持外二名は前記施行令七一条四号にいう同族判定株主である使用人兼務役員というべきである。」との判断は明白に違法である。

よつて、御庁においては、原判決を破棄し、第一審判決に従つて本件請求を認容して、自判して下さるようお願いします。

第二 〈省略〉

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